09月 «  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  » 11月

スポンサーサイト



上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



 



ときどき行く本屋さんで、彼はバイトをしていた。
ネームプレートにひらがなで「みやもと」って書いてあった。

どんなひとなのか、そんなことはわからない。
だけど、文庫本にカバーをつけてくれる手が、誰よりもやさしかった。
おつりをもらうときに、指先が触れて、どきどきした。
本屋さんに行ったときに彼がいると、心がぽぅっと温かくなった。

だけど、いつの間にか「みやもと」さんは、そこの本屋さんからいなくなった。
いつ行っても、姿を見なくなった。
雑に折られたブックカバーを見るたびに、彼に逢いたくなった。
彼のやさしい手で、カバーを折ってもらいたかった。
今、あのやさしい手は、何をしているのだろう。
違う本屋さんで誰かにカバーを折っているかもしれない。Tシャツを折りたたんでいるかもしれない。お魚をさばいているかもしれない。女の子の髪の毛を梳いているかもしれない。
何でもいい、やさしい手にふさわしいことをしていればいい。
彼のことを考えると、ふんわり口元に笑顔が浮かぶ。

もしも。
もしもだけど、お話しする機会があったら、どうしよう。
こんなにも微笑みをくれた人に、何かお返しをあげたい。
自然に、彼が笑顔になってくれるように。
思い出すたび微笑んでくれるような、彼の手のような、やさしいお返しを。

クリスマス近く、にぎわう街。
色とりどりの電飾に飾られた道の向こうに、見慣れた横顔を見つけた。
誰かを待っているふうでもない、ひとりでぼんやりと歩いている。
彼だ、と思ったときには、彼の前に飛び出していた。
「30分だけ、恋人になってください」
自分でも思いがけなかった言葉。
恋人になりたいだなんて思っていなかった。でも、もしかして、深層心理だったのかな、わからないけれど。
驚きながらも頷いてくれた彼を見て、思った。
そのときがきたんだ。
絶対に、もらった分は、返そう。微笑みのクリスマスプレゼント。
彼の手をとって、歩き出す。
このやさしい手に、30分、いったい何から返そうか。




★   ★   ★

去年のクリスマス、このおはなしの男の子編を書きました。
あわせて見ていただけるとうれしいです。
スポンサーサイト


つぶやき  恋愛

| Top |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。