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さいごのなつやすみ



きっかけは、家のドアの前に置かれていた、謎の紙袋だった。
月曜日だっていうのに、12時過ぎまで残業になっちゃって、最終電車で帰ってきた。
早くメイクを落としたい、汗かいちゃったし。早くシャワー浴びて、さっぱりして、眠りたい。だけど、お腹もすいている、急な残業で、何も食べてないから。冷蔵庫に何か入っていたかな。
そんなこと思いながら、むくんだ重い足引きずってドアの前。
何ですか、この紙袋?
そりゃ、何かヤバいものかもしれないって思った。爆発物とか、そういう類の。
だけど、犯人が、わざわざコムサ・イズムの紙袋、使うか?
そう思って、恐る恐る袋の中を覗きこむと、見慣れない紙に包まれた、ハンバーガー?がこじんまりと入ってた。
ますます怪しい……なんでこんなところにこんなものが?
もう一度、袋の中を覗きこんだ。
何か、小さくたたまれた紙が入ってた。
なんだ、これ? 不幸の手紙?
取り出して、開いてみると、はらりと何かが舞い落ちた。
……クローバー、四葉の。
いったい、誰が?
って思ったとき。ふと、あのばかの顔がよぎった。
まさか? でも? どうして? たくさんのクエスチョンマークが浮かんでは消えて浮かんではメリーゴーラウンドのようにくるくるとまわって……眩暈が起きそう。早いとこ、エネルギー注入しなくっちゃ。

謎のハンバーガー。
包み紙から出して、お皿の上に乗せてみた。
毒を盛ってる……なんてことはないだろう。たぶん、犯人はアイツだ。
腹立つなぁ。どうして急に、こんなことするんだろう。
忘れようと思ってたのに。
忘れたと思ってたのに。

手がかりは、ハンバーガーの包み紙に書かれていた文字だけだった。
ネットで検索して、たぶんここだろうというところを見つけ出した。
そもそも。冷え切ったハンバーガーなんか、おいしくないじゃん。レンジでチンしても、元に戻らないじゃん。そんなこともわからないのか、ばーか、ばーか、ばーか。
あのばかがどれだけ美味しいものを食べたのか、興味があっただけなの。
だから。
カイシャの有休利用して。
本日、あたしは旅に出ます。
ともだち誘って行こうかとも思ったけど、あいにく有希はお肉が食べられないし。
有希がいないとクルマを出してもらえないのが痛いけれど。
たまにはのんびり汽車の旅、も、いいものでしょう?
かばんに本だけ詰め込んで。
……寝不足だから、ずっと寝たままになっちゃうかも?

だけど。寝ておいて正解だった。
ギラギラと恨めしいくらい眩しい太陽。観光地はどこもかしこも遠くって。せっかく来たんだから、どこかに行かなくちゃ。駅前のレンタサイクル借りようかと思って、諦めた……だって、中学生のとき以来、自転車なんか乗ってないもの。だから。ひたすら歩くしかないでしょう。帽子を目深にかぶって、肩からバッグをぶらさげて。
たった5km。されど5km。
夏も終わりかけとはいえ、晴天8月の5kmは遠かった。
日影さえない、延々続く1本道。遠くに陽炎、蝉時雨。だらしなく甘い溶けたキャンディ。
どこまでまっすぐ進めばいいのか。ホントのホントに気が遠くなる。
アイツ、ホントにこんな道を歩いたのかなぁ?
にわかには信じられない。だって出不精だったもの。日曜日、どこかに行こうよって言っても、生返事で。そのうち会話もなくなって。笑うこともなくなって…
って。やめやめ!
じめじめしてたら、ますます道が長く感じられちゃうもの。
楽しいことだけを考えよう。
人事部に今年入社した男の子、かわいかったなぁとか。
……オバサンか!?
年もとりました。目尻に小じわができてました。美容液にお金をかけなきゃならないかもしれない、そろそろお肌の曲がり角です。
ちゃんと綺麗にしてなくちゃ、カレシだってできないよ。
カレシ……
まだカレシのつもりなのかな、あのばかは。
それとも、合コンとか友達の紹介とか、全部断ってるあたしが、アイツをまだカレシだと、心のどこかで信じているのか。
ちゃんとサヨナラしたわけじゃない。
なんとなく会わなくなった、ただそれだけ。
最後に会ったのは、何ヶ月前だっけ? それ以来、電話もメールもしていなかった。
自然消滅か、またつながってゆくのか。
だけど、正直、今は。
カレシよりもメシだよ。おなかすいたー。

炎天下5km歩いたあとのフレッシュなグレープフルーツジュースは、何よりおいしかった。
一気にストローで吸って、吸いすぎて、お店中に「ずー」って音が響き渡って、店員さんに少し笑われた。
熱々のハンバーガーはめっちゃおいしくて、おいしいけど大きすぎて、どんなに口を大きく開けても、マスタードが口の横についてしまった。
あのばかも、食べるの下手くそだったから、きっと口の周りいっぱいにマスタードをつけて食べたんだろう。
ははは、笑っちゃう。
そういえば。一緒に行ったハンバーガーショップ、アイツの口の周りはみ出たケチャップ思わず指でぬぐって、その指何気に舐めちゃったら、アイツぽかんとあたしを見て、笑い出したんだった。確かに、こどもじゃあるまいし、フツーはそんなことしないよね。でもあのとき、自然にそうしてたんだ。その帰り道、ふたり、自然に手をつないでたんだ。
ともだちと恋人の境界線を自然に越えた日。
覚えているかな? 忘れたかな?
あたしも今まで忘れてた。
そんな日もあったんだよね、あたしたち。
そんなこと思い出しながらポテトを飲み込んだら、うまく飲み込めなくて、少しだけ、むせた。

相も変わらず、恨めしいくらいのギラギラ太陽、帰り道。
鳥の声、蝉時雨、木の葉擦れ。
手に持ったペットボトルのミネラルウォーターが尽きてくる。
だけどあたしは行かなくちゃ。
行きたい場所があるんだもの。
歩きましょう、どこまでも。
カロリー、消費しなくっちゃ。
「細いなぁ……」
はじめてあたしを抱きしめたとき、ふっとアイツがつぶやいた。
「それって、太って見えてたってこと?」
尋ねると、そうじゃなくて、とアイツは笑った。
そうじゃなくて、女の子なんだね、って。
そうだね。神様が創ったあたしたちの体は、こんなにも違っている。
だけど、抱きしめあうと、ぴったりと収まる。こんなにもぴったり、まるでジグソーパズルのピースのように。
ふたつでひとつだった。
そんなやさしい夜も、確かにあった。

いったい、どれだけ汗をかいたのか。どれだけカロリーを消費したのか。
いくら食べてもきっと大丈夫!って思えるくらい歩いて到着したのは。
有名なラベンダー畑でも、お土産物やさんでも、観光スポットでも、なんでもない。
もうひとつの、人気のあったハンバーガーのお店。正確には、他のお料理もチョイスできます。だけど、今日は絶対、ハンバーガー。
どうして、一日2個もハンバーガーを食べなくちゃならないのか。しかも、ファーストフードのぺらぺらなハンバーグのヤツじゃなくって、こってりジューシーなボリュームハンバーガーを、2個も。
これは、くだらない競争心。
なんだかアイツに負けたくない。
食べてみて……さっきのよりも全然ダメだったら、あたしの負けだ。圧倒的に美味しかったら、あたしの勝ちだ。
同じくらい美味しかったら、そしたら。

確かに、美味しい。ホントに美味しい。
美味しいけど、お腹が文句を言う。もう少し、違ったもの食べたっていいんじゃないか?
いやいや、お腹クン、今日は我慢してよ。
またしてもあつあつジューシーな肉汁を受け止めた舌クンも悲鳴をあげる。いいかげんにしてくれよ。
口のまわりはタルタルソースでべたべた。女子度、ガタ落ち。
でもね。ホントに美味しい。付け合わせのサラダもめっちゃ美味しい。お店の雰囲気もかわいい。カラカラの喉に、またしても染み入るフレッシュなグレープフルーツジュースも美味しい。
なんで、こんなにおなかいっぱいで食べなきゃならないんだろう。
自分でそうしたのか。
いや、でもね。それでも美味しいんだから、すごいことですよ。
両方とも、とっても美味しかった。だけどね。

ぽんぽんに膨らんだお腹をさすりつつ、帰りの電車に揺られる。
眠いなぁ。だけど、寝たら豚になる。あえて、背筋をピンと伸ばして座る。それでも、とろとろ重く落ちてくる瞼。まだ、もうちょっと待って。もうちょっとだけ、考えごとを終わらせてから。
考えること、ハンバーガー勝負。
けっきょく、ハンバーガー勝負は、引き分け。
どっちもそれぞれ、美味しかった。個性があって、優劣、つけられない。
だから。
バッグの中には、きっともう冷えたハンバーガーがふたつ。到着するころには完全に冷えている。
冷えちゃったハンバーガーなんか、美味しくない。チンしたとしても、元には戻らない。
さっき食べた、美味しい熱々ハンバーガー。
だけど、何か足りなかったんだよ?
逆に。
冷え切ってたとしても、チンしただけだとしても、そんなこと飛び越えちゃうような美味しさがあることを、あたし、思い出したんだ。
近くにいすぎてわからなくなっていた。
そばにいるだけで、泣けてくるくらい幸せだったのに。
並んで歩く帰り道。向かい合わせで食べるごはん。ふたりだけにしかわからない秘密のことばとくすくす笑い。繋いだ左手の温かさ。くちづけ。匂い。吐息。
ひとつひとつが愛しくて。
いつからあたしは贅沢になったのだろう。
仕事が忙しいって、会ってくれない。電話もくれない。メールの返事もなかなか来ない。
そんなのどうだっていいくらい、いっぱい素敵なことがあったはずなのに。
全部忘れて、拗ねていた。
大事にされてないならもういい、って、連絡すること、避けていた。そしたら、そのままフェードアウト。きっとアイツは何もしない。そう思っていたのに、3カ月後のハンバーガー。いったい、何を考えているの? そんなことするくらいなら、電話だってメールだってできるはずなのに。泣きながら食べたの、ハンバーガー。冷え切って、美味しくなくって、だけど温かかった。
ねぇ、今も、まだ待っていてくれてるの?
ただ、喧嘩が長引いちゃってたってだけなのかな? そう思っていいの?
それとも、アイツ、何も考えてなかったの? ばかだから。ホントに、ばかなんだから。
手帳に挟んだ四葉のクローバーが、あたしに少しの勇気をくれる。
ごめんねのかわりに、ハンバーガー。ありがとうのかわりにハンバーガー。
冷えちゃったハンバーガー、きっと一緒に食べたら美味しいよ? だって、そうだったよね。いつだって、ふたりで食べるごはんは美味しかったもの。
それでも、もしも、冷えてて美味しくないとか言うんだったら。
そのときは、一緒にまた、ここまで来ましょう。今度は、ラベンダーも見て、観光スポットも見て、お土産も買って、そのあと熱々のハンバーガーに齧りつきましょう。もしも口からマスタードがはみ出したら、あたしが拭ってあげる。その指、何気に舐めるから、そしたらふたり、とびきりの笑顔で笑いましょう。
いよいよ重い瞼が落ちてくる。
ああ、メール、しておかなくちゃ……でも、もう無理。頭が動かない。
落ちていく瞼の裏に、ゆっくりといちめんのラベンダー畑が広がっていく……

ねぇ。絶対、一緒に、行こうね。







★   ★   ★


お久しぶりです。
いきなりの長文投稿ですが^^;
本体ブログ「妄想チャンネル」に投稿しました「ぼくのなつやすみ」っていうおはなしのつづきです。
ずっと、アタマの中にはあったおはなしなのですが、
けっきょく書き上げたのは、こんなになってからです。
夏じゃねーよ。
だからタイトルをさいごのなつやすみにしてみました。あはは。
珍しく、自戒の念を込めてます。
幸せに慣れて、贅沢になっちゃいかんっつーことで。
ぺぺはこれからシゴトでございます。いやん。
けっこうストックたまってきたので、またぼちぼち放出するかもです。
もう、誰も来てくれてないだろなぁと思いつつ。

ぺぺでした。

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