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彼の傘は小さなビニール傘で、こんなどしゃ降りの日にどうしてこんなお願いをしてしまったのだろうと、今更ながら後悔した。
見上げた彼の横顔は、いつもと違って、なんだか少年のように見える。
戸惑っている? 初めて話したのに、ずうずうしいお願いをされたせいで? でも、嫌がっているわけじゃないと思いたい。だって歩幅を合わせてくれる。困っている? だけど、私が濡れないように、傘をさしかけてくれている。慣れていない? 唇をきゅっと結んで、まっすぐ前だけを見ている。不自然なくらいに。
私は、彼から傘を取り上げた。
「ちゃんとささないと、キミが濡れちゃうよ?」
彼は、左半身ずぶ濡れだった。
なんだか不思議。彼が子犬のような目で私を見るから、私に任せて、って気分になってくる。彼に傘をさしかけながら、私はくだらないことをたくさん話した。
彼は、どこかうわのそらな返事を繰り返しながら、それでも優しい目で私を見てくれるから、私は話し続けていられる。このまま、道がいつまでも続けばいいと思った。
だけど、どんな時間にも終わりがある。
「あ、もう駅」
ため息のように出てしまった言葉。彼も息をついたのがわかった。
「入れてくれてありがと」
声が震えそうになったから、なるべく棒読みでお礼を言った。
少しでもやさしい時間を長引かせたくて、ゆっくりと傘をたたんだ。
そして、ゆっくりと傘を返す、と。
彼はすばやくその傘を、私の手に握らせた。彼の手が、私の手を包み込む。
たった今まで、私に任せてなんて思ってた。
だけど、違う。
私は、守られている。
小さな棘が痛み出す。
ちくちくちくちく。
「これ、使ってよ」
声が私を包み込む。
ちくちくちくちく、泣き出しそう。
「でも、キミが…」
「大丈夫、駅からすぐ近くなんだ」
笑顔が私を包み込む。
ちくちく……ズキズキ……ドキドキドキ。
手をぎゅっと握って、その後彼は駆け出した。
私の手に残る、力強さ、ぬくもり。
「ありがとう!」
泣き出しそうな心を抱えて、私は上手に笑えていましたか?
びしゃびしゃに濡れて小さくなっていく彼の後ろ姿を見送りながら、私はありがとうと呟いた。
彼にも、勇気をくれた天使にも。

ドーナツ型の雲は、あれは天使の輪だった。
ドーナツ型の下には、ちいさな体と、そして、羽。

あの日刺さった、小さな棘。
私の中で、確かに芽吹いている。
微かで甘やかな痛みと、ときめきと。
うれしくて振り回して壊してしまった借りた傘と、さっき買ったばかりの真新しい傘を手にして、私はもう、明日話す言葉を探している。


  ★  ★  ★ 


女の子ヴァージョンです。
はじまりまでだけを書いてみました。

明日からは、本編に出てきた「黒い傘」くんのものがたりです。
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