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だけど、吉田佳奈は恋をした。
甲斐の視線を捕らえたからではないけれど、何かのきっかけで。
俺にはわかる。
吉田佳奈は恋をしている。
醸し出す雰囲気が、一瞬にして変わった。
やわらかい、甘い空気。
その香りは、俺にまで伝播してくる。
「吉田って、結構いいよな」
今まで吉田佳奈に目もくれてなかったやつらまで、急に騒ぎ出すようになった。
俺は、最初から気づいてたさ。……言えなかったけど。

ある日、普通に話していると、吉田佳奈が不意に言った。
「菊池くんって、みなみちゃんのことが好きなの?」
みなみちゃん? ああ、ずいぶん前に、誰をいいと思うか訊かれたときに、適当に答えた名前だった。
そういえば、吉田佳奈とは結構仲がいい、感じだった。
「好きっていうか……かわいくない?」
無難だと思われる返事をしておく。それに、河本みなみの栗色のつやつやした髪とくるくるした大きな目は、確かにかわいいと思う。だけど、本音を言えば、目の前にいる女の子の無自覚なかわいさにどきどきしている。
ホントに俺のこと、なんとも思ってないだろ? そうじゃなかったら、そんなに無防備でいられないだろ?
甲斐が、絶対に知らない、吉田佳奈。
少し尖らせた唇の紅さに、一瞬理性を失いそうになる。
「そっかぁ。みなみちゃん、かわいいもんね」
完全に、俺のこと見てないよね、今。
視線はこっちにあるけど、心がどこかに飛んでいる。
「みなみちゃんは、声もかわいいもんなぁ」
「でも、吉田は吉田で、結構いいとこあると思うけど。甲斐だって」
急に甲斐の名前を出した俺に、吉田佳奈は驚いている。もちろん、俺のほうが驚いている。なんのために、今、こんなところで。
でも、言いかけてしまったものは止められない。
「甲斐だって、そう思ってる……と……思う……」
完全に、後押ししてる状態じゃないか。
ばかだ、俺。
だけど、笑顔が見たかった。自信なさげにつぶやく女の子が一番かわいいってことを知らせてあげたかった。好きになった女の子の、とびきりの笑顔が見たかった。
だからって言って……ばかだ、俺。
「え……なんで……」
赤くなって動揺する吉田佳奈。
わかっていたことだけど、わかっていたことだけど、今更の痛みが胸に降り注ぐ。
ばかだ、ホントばかだ、俺。
喉の奥から熱いものがぐっときそうになったから、慌てて笑って、吉田佳奈のきゃしゃな背中を叩く。
どんなに気持ちを込めたとしても、親愛の情しか伝わらない態度。
友達の距離。
何やってるんだよ、俺、ホントに。
「ありがと。菊池くんっていいひとだよね」
いいひと……いいひとって。大嫌いって言われるより、今の俺にはリアルでキツかった。
それでも吉田佳奈の笑顔を見ることができてよかったなんて思ってしまった俺は、世界中の誰が見てもばかな男だったろう。

そのころからだったか、そのまえからだったのか、吉田佳奈はよく甲斐と喋るようになっていた。
別につきあっているふうではなかったけど。
俺はぼんやりと、ふたりが喋っている横顔を見ていた。
さっさとつきあってしまえばいいのに。
そしたら、少しは楽になれるかもしれない。あきらめがつくっていうか。
なんで気付かないかな、なんで言わないかな、ふたりとも。
なんでこうやっていつまでも見てるかな、俺も。
早いとこあきらめて、次に行けばいいのにな。
女の子は教室の中にも外にもいっぱいいるわけだし。吉田佳奈よりかわいい子だって、それこそ河本みなみでもなんでも、たくさんいるわけだし。
だけど。あきらめきれないのは、まだ可能性を信じているせいか。
「いいひと」が「好きなひと」になることは。
まず、ないだろうけど。
100%ありえなくはないんじゃないかって、心のどこかで思ってる。
思ってはいるけど。めったにない話、だよな。
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