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そして夏休みも終わって、前と同じような生活が始まった。
あれから3ヶ月。吉田佳奈とも甲斐とも話すことはない。
違うグループのやつらと適当に楽しく話し、適当に楽しい学生生活を過ごしている。
バイト先の女の子とは、夏休みが終わってからは会っていない。でも、寂しいともなんとも思っていない。
きっと、恋じゃなかった。彼女もきっとそうだったのだろう。
あのころの胸の痛みは、だいぶ和らいでいる。こうして、このままいつか忘れていくのだろう。早く時が経てばいい。
だけど、こんな雨の日には。
思い出す。
赤い傘。甲斐の笑顔。泣きじゃくる吉田佳奈。叩きつける雨。何もできなかった俺。
思い出してもしょうがないんだけどな。
戻れるわけじゃない、きっとあのときに戻ったとしても同じことを繰り返すのだろう。
俺がいなかったら、吉田佳奈は幸せになれていたのかな。
あの笑顔、好きだったのに。もう見ることもないのかな。
そんなことを考えながらぼんやり歩いていたら、壊れた傘を手にした甲斐とばったりでくわした。
「あ……」
思わず、呼び止めてしまった。
甲斐は怪訝な顔で、俺を見た。
「雨、結構強そうだけど、その傘で大丈夫か」
「ああ、今日、自転車なんだ」
「大丈夫かよ。気をつけろよ」
どうにか、当たり前の会話をした。
でも、本当に言いたかったことは、言わなかった。
おまえ、本当にこれでいいのかよ
もし訊いたら、なんて答えるのだろう。
別にいいよ
きっと、そんな返事だろう。
当然、俺には答えたくないだろうし。
本当は今も吉田佳奈のことが好きなくせに。何もしないで。
……何もしないのは、俺も一緒か。
それにしてもひどい雨だ。むしろ、濡れて帰ったほうが、すっきりするかもしれない。雨のシャワーみたいなものだ。
くだらないことを考えて靴を履き替えていたら、吉田佳奈と会ってしまった。
「……菊池くん」
手には赤い傘。
あの日と同じ、赤い傘。
見たら、急に意地悪な気持ちが芽生えてきた。
ここで甲斐の名前を出したら、どうなるだろう。
嫌がられようがなんだろうが、どうせ今更、笑顔を見せてくれることもないわけだし。
「さっき、甲斐に会ったよ。壊れた傘、持ってた。チャリで帰るんだって」
「壊れた、傘?」
「あ? うん。壊れたビニ傘……吉田?」
話している途中で、吉田佳奈の顔色が変わってきた。壊れた傘に何かがあるのか。口元に持っていった手が、明らかに震えている。
「おい、大丈夫か? 吉田?」
細い足が力を失ってしゃがみこむ。
確かに意地悪な気持ちにはなったけど、ここまで動揺するとは思わなかったし、ここまでのダメージを与えるつもりはなかった。
「帰れる?」
小さく頷く。差し出した俺の手には頼らず立ち上がる。だけどふらついて、俺の腕にもたれる。
突き放すこともできるだろうけど、でも、俺は吉田佳奈には優しくしてしまう。
それはまだ好きだから、だろうか。
こんな雨の日には、忘れたはずの恋のかけらが胸で疼きだす。きっと、吉田佳奈の胸にも、同じ想いが、別の方向を向いて、疼いているのだろう。雨が好きになったとはにかんでいた、あの日の吉田佳奈。
甲斐の話をしただけでこんなにも弱くなってしまう女の子。こんなにも近くにいるのに、誰よりも遠い。
今までも、これからも、決して俺を振り向かない。
だとしたら。
好きな女の子の幸せをただ願ってあげることも必要なんじゃないか。
もともと俺は、吉田佳奈の笑顔を見たかった、それだけだったはずだ。
その笑顔を取り戻してあげるには、どうすればいい?
「甲斐の家、行こうか」
俺は、吉田佳奈の手を引いて歩き出す。
「さっきチャリで出たはずだから、タクシー乗れば先回りできるんじゃないか」
「菊池くん?」
「そんなにさ、甲斐のことが好きなんだったら、ちゃんと言った方がいいよ。俺、吉田のそんな顔見たくないし」
俺のするべきことがわかった気がする。
ふたりをちゃんと向かい合わせること。
俺が壊したと思うのなら、俺が元に戻せばいい。
だから、ふたりに、チャンスを。
そこから先は、ふたりの問題だ。さすがの甲斐も、ふたりきりで向き合えば、どうにかなるだろう。いや、どうかな? そこまでは責任持てないか。
「待って、菊池くん」
吉田佳奈が、久しぶりにきちんと背筋を伸ばして、俺を見る。
「忘れ物があるの。ちょっと待ってて」

タクシーの中で、俺は、好きな女の子の恋の話を、初めてきちんと聴く。
まるで遠い世界の話で、俺の入り込む隙間はない。
完全に、失恋だ。
だけど心の中に、痛みだけじゃない、穏やかな気持ちが広がっていくのはどうしてだろう。
俺に必要だったのは、完全にふられることだったのか。
そう、最初からわかっていたんだ。吉田佳奈と甲斐は、同じ空気を共有している。俺とは違う。
だけど、わかったからといって、じゃあいいですよあきらめますよというほど、俺はまだオトナじゃなかった。だから、あがいた。泣き叫んで地団太を踏む、コドモみたいなものだった。
好きだけど、だから手放さなくちゃならない。
まだ、俺の左手は吉田佳奈につながっている。この手を放したときに、吉田佳奈は飛び立っていく。
そのまんま飛んでいけばいい。
あしたからは昔のようなあの笑顔で、いてくれれば、それでいい。
今はまだ、胸が痛い。そりゃそうだ、俺だって精一杯好きだったんだ。
タクシーが止まる。甲斐は、まだ家には着いていないようだ。まだ自転車がない。
1本向こう側のサイクリングロードを通っているのだろう。今頃、びしゃびしゃに濡れながら自転車をこいでいる、こんなことになっているとも知らないで。
あのぼーっとしたやつがどんな顔で驚くのか、考えただけでおかしかった。
タクシーを降りて、甲斐が来るはずのサイクリングロードまで引っ張っていき、そこで俺は吉田佳奈の手を放す。
ばいばい、ホント、好きだったけど。
「俺にできるのは、ここまで。あとは自分でがんばれよ」
「菊池くん……」
「ちゃんとつかまえてこいよ」
「ありがと。ごめんね」
「いいよ。俺がやりたくてやったんだし」
ああ、この笑顔だ。俺が見たかった笑顔。俺が守りたかった笑顔。
俺はそのきゃしゃな背中を、そっと押す。友達の仕草で。
走り出していけるように。
振り返らなくていい。まっすぐ前だけ向いて、壊れた傘をさしてフラフラ走る自転車と出会うまで、ずっと走っていけばいい。
頷いて走っていく、遠ざかっていく赤い傘。
俺ができるのは、ここまでか。
だけど、甲斐。オマエだけがあの子の笑顔を守ってやれると思うから、返すだけだぞ。またあの子を泣かせるようなことをしたら、そのときには俺が奪うからな、絶対。
まぁ、ないよな。
しあわせになればいい。俺は見てるから。
好きだったあの笑顔が、思い出に変わるまで。
「やるじゃん、男の子」
背中に、女の子の声がした。
振り向くと、白い服を着た河本みなみが笑っていた。
「見てたのかよ」
にじんだ目の前をこすって、俺は苦笑いをしようとした、けど、笑えなかった。
ただただ目をこするばかりだ。
これは雨なんだと言い訳をしようにも、雨は小降りになってきた。
かっこわるいな、女の子の前で。しかもかわいい子の前で。私服の河本みなみは、いつもよりかわいく見えた。傘の下でサラサラと揺れている栗色のつやつやした髪の毛、くるくるとした大きな目。前、友達に、誰がいいかとか訊かれたときに、この子の名前を答えたんだっけ。あのとき思っていた以上に、河本みなみはかわいかった。
「泣けばいいよ。かっこよかったよ、さっきの菊池くん」
雨が上がる。
河本みなみの後ろに光が差す。
その姿はまるで、
「惚れ直しちゃった」
栗色の髪の毛が光に透けて、白い服がふわりと風を含んで、
「今すぐは無理だろうけど」
地上に降りてきた天使のように、
「振り向かせるから」
見えたんだ。



おわり。




  ★  ★  ★


以上で、雨の日3部作終了です。
長かったですね~。

さて、本日はホワイトデーですね。
ぺぺはだいすきなひとからのお返しを、もらえるのでしょうか?
期待しないでおこう…
てゆーか、この日は逢えないだろうなぁ…
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